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映画「ニーチェの馬」(2011)

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ハンガリー出身のタル・ベーラ(Tarr B?la)監督作、「ニーチェの馬」(原題:「トリノの馬」A torin?i l?)をみました。

知り合いが絶賛していた事もあり、タル・ベーラ監督作品を観た事がなかった私ですが、とりあえず観てみることに。

なるほど人間の「絶望」を映像化したら、こうなるのか、と思いました。

本作を絶賛している方々を調べていくと、大体の人がタルコフスキーアンゲロプロス作品好きな人達か、芸術映画万歳!の人達ばかり。

あるインタビューで、タル・ベーラ監督自身が、

「映画は第七芸術であると思います。観客は知的で賢いので、作り手としてはベストを尽くさなくてはならないと思っています。観客は娯楽しか求めていないだろうと考え、ファーストフードの様な形でやることは可能ですが、しかし、私はそれぞれの観客が人格を持っていると思っているので、彼らの何かに触れるような作品を作らなければ」

と語っているように、タル・ベーラ監督自身が芸術的な映画を志向しているように思えます。

これは決して「ニーチェの馬」が駄作だと言いたいわけではなく、ハリウッド的な娯楽映画が好きな人向け映画ではないと言いたい。

私自身、映像製作のきっかけがドキュメンタリーだったためか、この「ニーチェの馬」を観たとき、まるでセミドキュメンタリー映画作品を観ている感じを受けました。

荒れ果てた広野にポツンと建つ、貧しい家屋と馬小屋。そこに生活を余儀なくされる、老いたる父とその父を支える娘の繰り返される貧しき日常。

タル・ベーラ監督渾身のカメラの長まわしと、よくぞここまで!と思わせるリアリズム。

独特な、とてつもなく長い間に、最近のテレビ化した映画のチャカチャカしたカットの切り返しが、まるで子供騙しに見えてしまうほど。

もろ手をあげて、私はこの映画を絶賛はしません。むしろ、観ているものにあえてタル・ベーラ監督の価値観を強いて見せようとしているところには嫌悪を覚えたくらいです。

しかし、タル・ベーラ監督が描こうとした世界観は、実にタイムリーな現実世界を映し出しているなぁと感じました。

それは、2000年の現代世界を取り巻く環境がいかにシビアで、貧富の格差が広がった、飢餓に溢れた危険な状況であるかと言うことです。

ヨーロッパでも、ある村の村長が指揮して村民たちに略奪を行わせたり、日本でも電気代などを止められて餓死してしまった方々のニュースが飛びかっています。

タル・ベーラ監督は自身を「独裁者」と呼んでいましたが、ある意味、映画に怒りを込めて、社会に訴えかける力のある数少ない映画人のような気がします。

話は変わりますが、現在大ヒット中のミュージカル「レ・ミゼラブル」がなぜ今頃になって映画化されたのか?

ニーチェの馬」と同じく、貧富の格差が広がった危機的な世界への警告のような気がします。

決して万人向け映画ではない、タル・ベーラ監督作品「ニーチェの馬」。

圧倒的なモノクロ映像美を体験したい方や、芸術映画を観ても睡魔に負けない方は、一度観てみてはいかがでしょうか。