この作品に出てくる、あるワンシーンが大好きで毎回そのシーンばかり観ていたのですが、
今回は初めて全編を通して観ました。
敬礼をするというシーン。そのシーンに登場する、バーのマダム役の岸田今日子さんが実に
良いのです。
ひいきにしているバーのマダムが岸田今日子さんという設定。
軍艦マーチを聞きながら加東さんが敬礼をして、「ねぇ、艦長もやってくださいよ」と笠智衆さんに
敬礼をうながします。すると笠智衆さんは艦長として敬礼のポーズを取ります。
するとさっきまでお風呂に入ってきたばかりという岸田今日子さんも頭にタオルを巻いたまま
ニコニコしながら敬礼を真似するのです。すると加東さんが「違う!敬礼はこう!」と
岸田今日子さんに下官がする敬礼を教えるのです。
このニコニコした岸田さんの笑顔が良くて、思わず何度も観てしまいます。
全員が軍艦マーチにあわせて、ゆらゆら頭を揺らしながら敬礼をしているという、
とても変なシーン。
加東さんのセリフ「艦長、どうして日本は負けたんすかねぇ?」
笠智衆さんは「うん」と言って、二人はウィスキーを飲みます。
描いた傑作です。
この映画をあげていました。
「秋刀魚の味」はユーモアにあふれた、人情ドラマ。
娘役の岩下志麻さんの美貌(ものすごく美しいのです。ホント!)に魅了されながら、
父親役の笠智衆さんの感情を抑えた演技が鑑賞後にずーっと印象として残ります。
太平洋戦争に敗れた戦後日本の復興の様子を背景に、そんな社会の中でも変わることのない
人間模様を丁寧に描いた作品だと思います。
ただ、現在の日本人女性の価値観とこの映画が描かれた時代の価値観は大きく異なってきていると
感じます。それは「結婚」する事への価値観の違いです。
当時はまだ日本人女性にとって結婚する事は当然のこととして受け入れられていましたが、
今では結婚を選択しない日本人女性が増えているよう思えます。
結婚を選択しない「オールド・ミス」は、現在では至るところで見うけられます。
個性的であるものの「品」があると感じます。
どこか形式的ではありますが、今ではもう見ることができない日本人独特の様式美がそこに
残されているように思えるのです。
失われてしまった日本の風景と、日本人の気品を小津安二郎監督は映画として残してくれたのだと
思います。
是非、『秋刀魚の味』を御覧ください。