漫画家、赤塚不二夫先生の超有名な漫画「おそ松くん」。
最近、テレビのCMでも頻繁に「おそ松くん」のキャラクターを使ったものをよく見かけます。
例えば、日産の車のCMとか、お菓子のCM。
「おそ松くん」を知らない人でも、「シェーッ」という奇声を発するキャラ、出っ歯でおフランス帰り(自称)のイヤミをどこかで見た事があるかと思います。
いやむしろ、漫画「おそ松くん」は、主人公の六子(むつご)の兄弟よりも、脇役キャラの方が有名です。
イヤミにチビ太、デカパンにハタボウ、ダヨーンのおじさんにトト子ちゃんなど。
実は、私は小学生の頃、漫画家に憧れていた一人でした。
友人の栗本くんと二人でコンビを組んで、ペンネームも「藤栗広樹」(フジクリヒロキ)なんて付けたりしていました。
気分は藤子不二雄先生でした。
私のデビュー作品は、「あかんたれ刑事(デカ)」と「名探偵ノビマン」。
「あかんたれ刑事(デカ)」は四コマ漫画で、主人公の刑事がラスト必ず犯人を射殺して言う台詞が、「あかんたれ!」でした。
「名探偵ノビマン」は、山根青鬼先生の漫画「名探偵カゲマン」をパクったものでした。
友人の栗本くんは、私よりも描く絵が丁寧でした。
今では考えられない話ですが、当時、発売されたシャープペンシルを使って漫画を書く事を教えてくれたのも彼でした。
鉛筆が当たり前だった当時、別売りの細い芯を詰め替えて、カチカチさせて使うシャープペンシルはとても新鮮な道具でした。
栗本くんはアイデアも、発想も私が考えるアイデアよりも大人でした。
そんなある日、彼が赤塚不二夫先生の漫画「おそ松くん」を読んだ時の話です。
「おそ松くん」の中に「イヤミは一人、風のなか」という長編漫画があります。
この長編は今でも「おそ松くん」ファンの間で、一位、二位を争う名作と言われています。
その長編漫画を読んだ栗本くんは私に、「将来、僕らが書く漫画はこうでなくっちゃ。ストーリー漫画には感動させるものが必要だと僕は思う」と言いました。
「イヤミは一人、風のなか」は、あの喜劇王チャーリー・チャップリンの映画「街の灯」を、赤塚流に、大胆にアレンジした漫画です。
物語を江戸時代に設定し、主人公は貧乏長屋に住む浪人、出っ歯のイヤミ。
物語は、元侍なくせに、まったくのダメ人間になっているイヤミが、ある日、眼の見えない花売りの少女に会うところから始まります。
身寄りのない少女に情けを感じた、ダメ侍イヤミは、少女の眼を治す費用を稼ぐため、懸命に働き始めるのですが・・・・
栗本くんは「漫画のラストシーンに感動した。あの長いコマ割りはスゴイね」と、私によく話してくれたものでした。
小学生から中学生にあがる頃、私は両親に漫画家になりたいと話しました。
しかし、私の両親は猛反対。
あんな仕事で食べていけるのは一握りの人だけ、大学も行かずに漫画家になるのはけしからん!
結局、友人の栗本くんは親の都合で引越して行き、漫画家「藤栗広樹」はマボロシと消えました。
大人になり、今でこそ日本の漫画、アニメが世界で注目されているのを目の当たりにし、時代の大きな変化を感ぜずにはいられません。
離ればなれになった、栗本くんとはもう何十年と会っていません。
今も「おそ松くん」を見るたびに、栗本くんは今頃どうしているかなぁ、もし、二人で漫画家になっていたらどうなっていたのかなぁ、と考える時があります。