STUDIO F+のPhoto Blog

デジタル映像スタジオSTUDIO F+の写真専門ブログです

黒澤明監督「まあだだよ」

世界の黒澤明監督の遺作、1993年の「まあだだよ」をようやく観ました。

この作品は、戦前、戦後に活躍した小説家、内田百閒とその門下生との交流を描いた作品。

内田百閒と言えば以前のブログでも書いたとおり、「冥途」などの小説を書き残した
夏目漱石門下生だった人物。

映画では内田百閒と彼を支える妻、そして内田門下生の弟子たちが繰り広げるハートフルな
ドラマとして仕上げています。

この映画の脚本は黒澤明監督自身の手によるもので、黒澤作品の中で黒澤明監督一人で
脚本を書いた作品のリストは以下。

姿三四郎」(1943年)
「一番美しく」(1944年)
「続姿三四郎」(1945年)
「虎の尾を踏む男達」(1945年)
「夢」(1990年)
八月の狂詩曲」(1991年)
まあだだよ」(1993年)

黒澤監督が手がけた全30作品(31作品)のうち、7作品のみ黒澤監督が一人で脚本を
手がけた作品となります。

個人的な感想としての「まあだだよ」は、黒澤明監督というネームバリューがなくては
製作されなかった作品だったと思いました。

物語の内容、展開をとっても、さほど面白くない作品で、内田百閒が小説家だという
印象がほとんど残らない映画でした。

脚本に問題があるのか?
それとも、巨匠とよばれる監督にありがちな、ネームバリューと過去の実績のおかげで
監督が思うように自由に作っていい映画として製作され、誰も文句をつけようが
なかったのか?

このあたりはアニメ界の巨匠、宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」、北野武監督の
「監督ばんざい!」も全く同じことが言えると思います。

ビジネスを抜きにして作られた、巨匠映画監督の趣味的な自主製作映画のような感じが
映画「まあだだよ」にはありました。

黒澤明監督の晩年の三部作、「夢」「八月の狂詩曲」「まあだだよ」はまさに
巨匠映画監督の趣味的な自主製作映画であり、ノスタルジックな作風で貫かれた
監督の懐古趣味がふんだんに盛り込まれたものだと思います。

私が唯一「まあだだよ」で好きなシーンは、戦後、焼け残った小屋に妻と暮らす
内田百閒の姿を、春夏秋冬の四季の中を通して生活しているという短いシーン。
音楽だけをバックにして描かれたこのシーンはよかったですね。

黒澤明監督が「まあだだよ」で描こうとした、師匠と弟子の麗しき心の交流。

日本映画の巨匠が最後に憧れた、壊されざる師と弟子の関係の姿は、
現在の日本で忘れ去られつつある姿なのかもしれません。