この作品は、戦前、戦後に活躍した小説家、内田百閒とその門下生との交流を描いた作品。
内田百閒と言えば以前のブログでも書いたとおり、「冥途」などの小説を書き残した
夏目漱石門下生だった人物。
映画では内田百閒と彼を支える妻、そして内田門下生の弟子たちが繰り広げるハートフルな
ドラマとして仕上げています。
脚本を書いた作品のリストは以下。
「姿三四郎」(1943年)
「一番美しく」(1944年)
「続姿三四郎」(1945年)
「虎の尾を踏む男達」(1945年)
「夢」(1990年)
「八月の狂詩曲」(1991年)
「まあだだよ」(1993年)
黒澤監督が手がけた全30作品(31作品)のうち、7作品のみ黒澤監督が一人で脚本を
手がけた作品となります。
製作されなかった作品だったと思いました。
物語の内容、展開をとっても、さほど面白くない作品で、内田百閒が小説家だという
印象がほとんど残らない映画でした。
脚本に問題があるのか?
それとも、巨匠とよばれる監督にありがちな、ネームバリューと過去の実績のおかげで
監督が思うように自由に作っていい映画として製作され、誰も文句をつけようが
なかったのか?
「監督ばんざい!」も全く同じことが言えると思います。
ビジネスを抜きにして作られた、巨匠映画監督の趣味的な自主製作映画のような感じが
映画「まあだだよ」にはありました。
巨匠映画監督の趣味的な自主製作映画であり、ノスタルジックな作風で貫かれた
監督の懐古趣味がふんだんに盛り込まれたものだと思います。
私が唯一「まあだだよ」で好きなシーンは、戦後、焼け残った小屋に妻と暮らす
内田百閒の姿を、春夏秋冬の四季の中を通して生活しているという短いシーン。
音楽だけをバックにして描かれたこのシーンはよかったですね。
日本映画の巨匠が最後に憧れた、壊されざる師と弟子の関係の姿は、
現在の日本で忘れ去られつつある姿なのかもしれません。